気泡の中に繊維を練り込む。ミクロなイノベーションがランニングシューズを変えた

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    気泡の中に繊維を練り込む。ミクロなイノベーションがランニングシューズを変えた
    Sponsored by アシックス

    ミクロの世界のイノベーションです。

    2016年6月、ASICS(アシックス)の「DynaFlyte」というシューズのお披露目ニュースを掲載しました。

    ミッドソール(アッパーと靴底の間のクッション材)に、軽量かつクッション性に優れた素材「FlyteFoam」を用いているのが特徴で、ランナーにとって快適な一足であることをお伝えしました。

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    シューズのミッドソール。右が「FlyteFoam」使用のもの。Photo by Wataru Shimosato

    しかし「軽量化」と「クッション性の向上」って、なんだか相反するようなイメージないですか? なんとなくトレードオフの関係にあるような。

    この疑問について、記事にヒントとなる箇所がありました。それによると「FlyteFoam」は「素材に繊維を添加して強化しているのでヘタリにくくクッション性が持続する」とのこと。

    なるほど…ニュース記事なのでさらっと書いていますが、なんだかここらへんにものすごいイノベーションが潜んでいる予感がしますね…!

    秘密を探るべく僕たちが訪れたのは

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    ということで、その秘密を探るべく「アシックススポーツ工学研究所」にやってまいりました! 神戸市の郊外に位置し、日々スポーツプロダクトやサービスシステムの研究開発が行なわれている同社の重要拠点です。

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    インタビューに答えてくださったのは「FlyteFoam」の開発を率いたフットウエア材料開発チームのマネジャー、立石純一郎さんです。

    約3年という、異例ともいえる長期にわたって開発された「FlyteFoam」。果たして「軽量化」と「クッション性の向上」の両立はいかにして図られたのでしょうか?

    軽くしても簡単につぶれないようにする

    ── 「軽くてクッション性に優れる」という「FlyteFoam」の特徴はランナーにとって魅力的ですが、その2つは相反するイメージがあります。

    立石さん:実はそうなんです。好みはあるにせよ、科学的な視点で見るとスポーツシューズは軽ければ軽いほどよいので、まず素材を軽くするべく樹脂をスポンジ状にすることからスタートしました。気泡を入れて軽くするわけですね。

    ただ、このままだと軽くはなるのですが、軟らかくなりすぎてしまうんです。重さがかかると気泡がつぶれてしまい復元しない。このままでは走ったときの衝撃を緩衝できなくなってしまいます。そこで「軽くしても簡単につぶれないようにしたらいいんじゃないか」と考えました。

    ── なるほど。しかし、いかにも難しそうな課題ですね。

    立石さん:いろいろ考えました。気泡の壁を固くするか、とか。そんな中で出てきたのが気泡の中に芯を入れるというアイディアです。「Fiber-Reinforced Plastics」、通称「FRP」の技術を利用できるのではないかと思いました。

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    アシックス公式YouTubeより。

    F1のモノコックボディなどに使われる、繊維を混ぜ込んだプラスチックです。この技術を応用して、気泡の中に繊維の柱を立てて、つぶれにくくしているのです。

    ── めっちゃミクロなお話ですよね?

    立石さん:何ミクロンという世界ですよ。電子顕微鏡で覗いた写真があるので見てみてください。左が単に樹脂を発泡させた状態。右が「FlyteFoam」です。

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    ── ほんとだ! 繊維が入っていますね(矢印の部分)。しかしこの発想はどこから生まれたのですか?

    立石さん:この研究所にはいろいろな人がいて、いろいろなものを作っています。たまたま私の周りにFRPの研究者が多かったこともあり着想に至りました。「軽くしながらクッション性も持たせる」という、ある意味で二律背反した課題をクリアするには、何らかの新しい技術を導入しないと壁が破れない。さまざまな研究が行なわれているこの場所は、そういうブレイクスルーが生まれやすい環境だと思いますね。FRPは、最初はF1や航空機だけに使われていたものでしたが、その後どんどん量産化されていて勢いがあります。世の中をがらっと変えるような技術だと思います。

    来る日も来る日も試作を繰り返す

    ── 「FlyteFoam」の開発にはどのくらいの時間がかかっているのですか?

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    MetaRun(※画像は2017年1月末に発売されたNEWカラー)

    立石さん:2011年から始めて、最初の搭載モデル「MetaRun」が完成するまで約3年かかりました。スポンジというのは、加熱するとガスが出るような薬剤を樹脂の中に混ぜておいて約4〜9倍の体積にポンと発泡させるのですが、開発段階の材料は繊維を樹脂の中に混ぜるため、なかなか発泡してくれない。固くなりすぎて全然膨らまないんですね。

    そこで、適度に材料が軟らかい状態で発泡できるように、発泡のタイミングをコントロールする研究に時間をかけました。プラスチックを発泡化する技術は大学でも盛んに研究されていて、実は学術的にも難しい分野で、今なお現場においてもノウハウのかたまりといえます。

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    FlyteFoamの開発に使用された素材の数々。

    ── 作業的には試作を繰り返すのですか?

    立石さん:サイエンティフィックに考える部分はもちろんあるのですが、どうしても分からないところは実際に手を動かして追求します。料理に似ているところがあるんですよ。まず「小麦粉を米粉に変えたら膨らますのが難しくなった」みたいな状態。原材料ががらっと変わったので。そこから材料の分量を調整していくわけです。

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    材料を練る機械で練ったものを金型に入れ、熱を入れて10分、20分と待って金型を開けるわけですが、初めのころは来る日も来る日も、何度やっても膨らまず苦労しました。その後、徐々に膨らむようになってきて「ここを変えたらこうなる」というデータを積み重ねていった感じですね。本当に、レシピを変えながらひたすら試作を繰り返していました。

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    ── その後はどのようなプロセスに移るのですか?

    立石さん:膨らんでスポンジ状になれば、次は性能を調べます。引っ張ったときどのくらいの力で壊れるかとか、鉄球などを落として跳ね返りを見たりする。靴にしたときにも性能が出せそうだということが分かれば、そこからサンプルシューズを作ります。

    ── 軽くてクッション性に優れたミッドソールができあがっても、そこから靴に仕上げていくにはさらに別の知見が必要になりますね。

    立石さん:そうなんです。この研究所は私たちのような素材を作る部隊だけでなく、靴の形を考えたり、実際に靴を製造する部隊もあって、そことタッグを組んで進められたのはよかったですね。例えば、軽くしただけだと靴の中で足がグラグラ動いてしまってよくなかったりします。そういうときは樹脂のパーツを周りに付けて補強し、足を安定させるんですけど、それも極力軽くできるような形状を考えています。研究所の総力で、トータルパッケージとして軽量化を図れたのも大きなポイントだったと思います。

    「FlyteFoam」搭載のニューモデル

    いやぁ、アツい開発秘話を聞くとこちらのモチベーションも上がってきますね。今すぐにでも走りに行きたい気分です。

    せっかくなので「FlyteFoam」搭載のニューモデルを試してみたいところ。2017年2月23日に3モデルが発売になります。

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    トライアスロンに適した機能を持つ「NOOSA FF」。グリップ性に優れ、より機能的に生まれ変わった軽量クッションモデルです。

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    反発性に優れたスピードランナー向けの「GEL-DS TRAINER 22」。優れた走行安定性を持つレーシングラスト採用のスピードクッションモデルです。

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    そして記事冒頭でも紹介した「DynaFlyte」の新色も登場。軽量性と反発性に優れたスピードクッションモデルです。

    初心者ランナーの僕は「DynaFlyte」かな? 約3年の月日を経て生まれたイノベーションを味わいながらランニングを楽しんでみたいと思います!

    source: ASICS

    (文:奥旅男、写真:中西俊介/Wataru Shimosato)