メディアの仕事が、したかったんだ。自分で情報を作り、広く伝えたかったんだ。
そう思ってやってきたTOKYO。あらゆる所に地下鉄が張り巡らされている大都市だ。今は学生時代から愛読していたギズモード・ジャパンの編集スタッフになり、めまぐるしい日々を送っている。

楽しいかって? いや、そうでもない。まだ仕事に就いてから2カ月しか経っていない。メインストリームもサブカルチャーも同じレベルの存在感で共存している東京だからこそ誘惑が多いと思っていたが、まだアパートとオフィスの行ったり来たりだけ。一歩離れると、どこに何のスポットがあるのかわかっちゃいない。まだ東京の何たるかを肌で感じたわけじゃない。
正直、ちょっと、焦っている。移動すらまだままならないオレは東京に受け入れられているんだろうか。楽しそうに闊歩している人を横目に見ながら、オフィスに戻ってからの仕事のことを考えていた。

メールだ。渋谷のオフィスにいる先輩からだ。
「アップルストア銀座での買い物、お疲れさま。そこ出たら、とりあえず飯田橋駅に向かって」
Ginza to Iidabashi

目的、記してなし。急ぎの用件なのかもしれない。しかし飯田橋、飯田橋…。どこだろう。ん、またメールが届いた。
「地下鉄で移動するといいよ。乗り換え案内はこの前に教えた『東京メトロアプリ』を使うといい」
どこからか、オレの訝しげな顔を見ているんだろうか。

現在地は銀座駅。ここから飯田橋駅に行くには、銀座線で日本橋駅まで行って、そこから東西線。10分ちょっとで着けるようだ。思い出した。初めて東京に来て凄いな、と思ったのは、地下鉄網だったことを。本数は多いしダイヤも乱れない。唯一の懸念点は地下鉄駅の乗り換えの難しさだろうか。駅構内の案内表示に従えば大丈夫ではあるんだけども。

「乗り換え方法わからなかったら、やっぱり『東京メトロアプリ』を使うべき。それぞれの駅の構内図をすぐに表示できるから」
本当に、オレの顔見えているんじゃないんかな。
Iidabashi to Zoushigaya

ライターから預かり物でもあるんだろうか。ここには皇居の外濠があるのか。神楽坂という地名は聞いたことがある。お座敷遊びができる料亭があるって、誰かが言っていたっけ。そう考えながら飯田橋駅の階段をのぼる。
ちろりん。またメールだ。
「飯田橋ついたよね。ごめん、今度は雑司が谷に移動して」
思わず笑ってしまう。なんなんだ。せめて目的だけでも教えてほしい。
「いいから移動して! ギズモードの未来は君の足にかかっているんだから!」
wも(笑)もないメッセージ。本当なのかフェイクなのかまったくわからない...。未来って、何事だ。

東京メトロアプリで経路を検索すると、乗り換え回数2回のルートが出た。もっと楽に行ける方法はないかと他の候補を表示してみる。

有楽町線で池袋駅まで出て、副都心線で雑司が谷駅に行けば乗り換え回数1回か。これで行こう。

そういえば東京メトロアプリは、これから来る列車がどの位置を走っているかを教えてくれる。また車両の種別も表示してくれる。雑司が谷駅は急行の停車駅ではないので、急行には乗らないように気をつけないとならない。
Zoushigaya to Meiji-jingumae

“何時までに”ということは言われていない。東京メトロアプリで「途中の移動を急げば、前の列車で到着します」と案内された通り急ぎ足で乗り換えたし、出口に近い車両に乗って移動したからすこし余裕ができたはずだ。カフェでビバークしよう。

そんな甘い考えは雑司が谷駅を降りて粉々になる。何も、ないのだから。明治通りから階段をあがり、目白通りに行けばいくつかの飲食店があるようなのだが、目視できる限り駅前には何もない。ここは本当に東京なのだろうか。東京砂漠とやらなんだろうか。
「次は乗り換えしなくていいから大丈夫だよ。明治神宮駅に向かってね」
とうとう移動だけが目的だということがわかってきた。というか先輩も隠さなくなってきた。
ノープランで散策するのとは違って、目的を知らされずにあっちこっち動き回るのは、キツイ。こんなミステリーオリエンテーリングに誰がした。先輩か。いつかシメる。キュッと。
Meiji-jingumae to Otemachi

...。
「そろそろ折り返し地点だよ。大手町にGo!」
あー...そうですか...はい、よろこんで...。
Otemachi to Daimon

多くの地下鉄路線が乗り入れているターミナル駅だけあって、大手町は入り組んでいる。

それだけに、立体の構内図が見られるのは安心だ。リアルにトイレ休憩したいときも、地上に出たいときもこの構内図があるから迷わずにすむ。

銀座、飯田橋、雑司が谷、明治神宮ときて、大手町。いったい先輩は何を伝えようとしているんだろうか。このオリエンテーリングで。
「次は大門駅! ラストスパート! 都営線使うことになるから「東京メトロ/都営地下鉄」のボタンをタップしてから検索しろよな!」

んん? まてよ? 次は大門駅だって?
Daimon to Omotesandou

もう一度駅名を並べてみよう。
GinzaIidabashiZoushigayaMeiji-jingumaeOtemachiDaimon...
あ! 頭文字が! 先輩の意図としていることが!
「わかったか! そうだ、これは仕事であり特訓なんだよ! 僕らの仕事はデスクワークだけじゃない。時には一分一秒を惜しんで様々な場所におもむいて取材したりロケハンしたり打ち合わせすることも大事。だからこそ効率よく各駅を廻るためのノウハウが必要になるんだ」
言われて見れば納得だ。特に東京の中心部を移動するなら地下鉄が欠かせない。地下のホームから地上のホームに上がることを考えたら、地下鉄だけで移動したほうが速いし疲れないことだってあるだろう。
「だからこそ、東京の都心部を移動するなら東京メトロアプリが一番いいんだ。的確に移動できるスキルを身につけられるから、外出が必要な仕事をスマートに進めることができるようになるし。さあ、ゴールは次だ! 表参道に向かってもらおうか!」
Yes,sir!
Omotesandou to Office

苦節3時間半。やっと地下鉄駅オリエンテーリングでGIZMODOの名前を作ることができた。というか7つの駅で乗り降りして、これだけの時間しかかかっていないというのも凄いんじゃないか。
交通費だって格安だ。今回のルートだと、都営地下鉄の駅である大門駅を除けば、大人600円の「東京メトロ24時間券」でぐるっと回ることができる。もはや東京の地下鉄を恐れることはない。オレの足としてこの苦労を共に味わってくれた彼はもう相棒だ。
さあ、せっかく表参道まできたんだ。遅めのランチとしゃれ込んでもいいよな。
「ダメ」
え?
「帰ってきて。仕事たまっているんだから」
だ、だってこのオリエンテーリングも仕事といったじゃないか。
「それも仕事。これも仕事。はいはい、早く帰ってこないと終わらないよ。今日だってあと3本は記事を公開しないといけないんだからね」

サクラサク、春。しかしまだ下っ端のオレに春はまだ遠かりし存在だった。見ていろ、来年。地方出身の後輩が入ったら、同じように東京メトロアプリでしごいてやるからな!
source: 「東京メトロアプリ」サイト,東京メトロアプリ(iOS),東京メトロアプリ(Android)
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(文:武者良太/撮影:上出優之利)