どんな発想でこういうものがクリエイトされるんでしょうね。
先日、アメリカはオースティンで行われた毎年3月に開催される音楽と映画とテクノロジーのフェス、SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)に、今年もあのHACKistが参戦したという現地レポートをお届けしました。
犬の気持ちがわかる「INUPATHY」や、
雪かきがゲームになる「Dig-Log」など、切れ味抜群のプロダクトとともに話題をさらったようなんです。
しかし、今年のプロダクトは、昨年までとは違う気合を感じたギズモード編集部。ということで、博報堂アイ・スタジオのデジタルクリエイティブラボ、HACKistさんに、その違いとは何かを伺いました。
今年、HACKistのプロダクトが違うわけ
2度目となる昨年は、冒頭の「POSTIE」や店頭プロモーションツール「Talkable Vegetables」など、よりコミュニケーション力を上げてくれるような、ほっこりとした作品が印象的でした。
クリエイティブ・ディレクター望月 重太朗さんが、「余裕が出てきた」と語る3度目の出展となった今年。やっぱり楽しげな、ワクワクするようなプロダクトが…と思ったら、何かいつもと違うんです。前よりちょっと“突っ込んだプロダクト”が多いというか。その理由を望月さんはこう語ります。
「技術を使って何かしらアプローチできる“先”というのは、もっと多様であると思っています。もちろんエンタテインメントをはじめとしたライトなコミュニケーションもその中の1つ。でも、例えば、山での遭難者を減らすために作られた『TREK TRACK』のようなプロダクトに、技術的にアプローチして何が起こるかみてみよう、そういう考えがあるんです。
ただそこに対して本気で向き合う。これには広告屋的なマインドがあるとも思っています。過去2回、SXSWに出展して、ライトなコミュニケーションのモノを作ってきた経験値が、突っ込んだアプローチをする余裕を生んでいった、そんな気がしますね」
HACKistが打ち出すメタモルフィック・プロトタイピングって?
レポートの中でも特に気になったのが、編集部とのこんなやり取り。
昨年のレポート時には全く出てこなかった、「メタモルフィック・プロトタイピング」。具体的にはどんなことなんでしょうか?ギズ:HACKistのみなさんにとって、普段のお仕事とSXSWってどういう関係にあるんでしょうか?
望月さん:HACKistの活動は、クライアントワークにまだ紐付いていない自分たちの技術を世の中に提示しようという発想なんです。広告的な技術、課題の発見とアプローチを組み合わせたプロトタイプのやり方で、「メタモルフィック・プロトタイピング」と呼んでいます。
「ほかの企業さんは、広告発想のプロトタイピングを作り続けることは少ないように思います。それに広告代理店系のデジタル企業というのは基本的にはプロデュースがメインで、制作機能を持っている会社はあまりないんです。博報堂アイ・スタジオは、主たる広告制作としての仕事のほかに課題の発見や技術の販売もあります。それらをたくさん見てもらうには、と思ってHACKistでの制作を始めたんですが、ほかの会社がやってないことだったんです。
この、プロトタイプに対する考え方を毎回説明していたのですが、あるときプロトタイプがいろいろな形に変化するという考え方を集約すると“メタモルフィック”だなと気付きました。メタモルフィック・プロトタイプという言葉を作って、それを出展のタグラインにしようと思ったんです」
単にプロトタイプを作り出すだけでなく、それらをいかに広告的な視点で活用するか。HACKistが産み出したプロトタイプを“変態(メタモルフォーゼ)”させて、クライアント企業や社会が抱える課題に合わせ、解決に結び付ける、それはもちろんアリな作業です。
ただ、タグラインを作ったことで作り手として変わった部分はあまりないとも、望月さんは言います。
プロトタイプの、その先が今後の課題
“メタモルフィック・プロトタイピング”というコンセプトで、日々クリエイティブな仕事をこなしていく望月さんですが、プロトタイプがプロトタイプでなくなるときはハードな仕事になるそうです。
「ハードだけど、壁を乗り越えて創っていくことが、楽しい(笑)」という望月さん。プロトタイプ作りには、自分たちがまだ経験してない領域に踏み込んでいく楽しさがあると言います。そしてあるスキルを得たときには、「何かしら新しい扉を開けるだろうという可能性が楽しみに変わる」のだそう。そんな悩みも、HACKistという類を見ない集団だからこそ、と言えそうです。
プロトタイプは自分で責任を負えるから楽ですが、それって楽なだけでその先にいかない。広告はその先を考える部分。プロトタイプの先にあるものを、未来的な何かを生み出すスキルで考えていく。その作業を続けていくことはツライけど楽しい作業で、やってみたら意外とできていましたね(笑)」
クリエイティブ集団、HACKistが生まれた土台とは
プロトタイプを作り出すだけでなく、その先まで考える。HACKistという集団は、望月さん曰く「特殊な組織」である博報堂アイ・スタジオの中だからこそ、そのような考えが生まれたと言います。
僕らはそれをモノ作りという立場から向き合っているので、その三本柱の中で技術をどういう風に使うかは、僕ら独自で持てる視点です。全体の潮流と自分たちがモノを作るという、その人だからこそわかるものが今クロスしている気がします。」
技術の種を産み出し、別の形に転用していく社内クリエイティブラボのHACKist。そして、その集団のノウハウを生かし、統合的な視点でデジタルマーケティング全般をプロデュースする博報堂アイ・スタジオ。そんな普通でないクリエイティブな集団だからこそ、“メタモルフィック・プロトタイピング”が生まれたと言えるでしょう。
遊び心から生まれる余裕とクリエイティブ
クリエイティブ集団HACKist擁する、博報堂アイ・スタジオの中には、その創造の断片を見てとれます。例えば、お客さんとのコミュニケーションツールとして作られた、社員全員を3Dスキャンして制作したフィギュア。受付にずらっと並べられ、数百もの社員の方に一同に迎えられるインパクトはかなりのもの。こんな遊び心が生まれるところも、次なるプロトタイプを生み出す泉となっているような気がしました。
自分たちの生み出すプロダクトに関して「体験できて、かつあまり説明が必要ないものは万国共通で盛り上がる。それは各プロダクトの思想としてありますね。ライトなアプローチで複雑なモノが返ってくると、人は興味を示します。そこの思想は生かされていると思います」と語る望月さん。
コンセプトやテーマ、そしてメタモルフィック・プロトタイピング…言葉は難しいけれど、HACKistが生み出すものは、どこかアナログで、心が温かくなるようなプロダクトだと思います。次はどんなプロダクトを見せてくれるのか? なんだかワクワクします。
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source: HACKist、博報堂アイ・スタジオ
(ホシデトモタカ)