泥をま〜るくま〜るくコネコネして乾燥。そして白砂をかけて磨いていくと、ピッカピカのツルツルな泥団子になります。
泥と砂で作ったとは思えないほど、固くツルツルの泥団子。誰が一番大きくて丸いものを作れるか、競いあったことがあるのではないでしょうか。
そんなピッカピカのツルッツルの泥団子を思い描いたのは、ナノオーダーでピカピカツルツルなオリンパスのカメラレンズブランド「ZUIKO」のことを考えていたから。ちなみにナノオーダーとは、ナノメートル(10億分の1メートル)単位の精度が要求されるということです。
ツルツルピカピカの泥団子作りにチャレンジ!
子どものころに、あれだけツルツルピカピカの泥団子が作れたのですから、大人になったらもっとすごい泥団子が作れるはず。そう思ったギズモード編集部では、泥団子作りにチャレンジしてみました。
コネコネ、コネコネ。どのくらいの時間が経ったでしょうか。何十年かぶりに作った泥団子、あまりうまくできませんでした。なんか丸くならないんですよね……。
それでも、表面がツルツルピカピカにはなりました。これだけツルツルならば、表面に凹凸なんてないはず。そう思い、オリンパスのコンデジ「STYLUS TG-4 Tough」の顕微鏡モードを使い撮影してみました。
あれ? 全体的にいびつな泥団子ではありますが、表面はツルツルになっています。触ってみればわかります。ツルツルです。湯上がりたまご肌なはずです。
しかし、よーく見ると結構凹凸があるんですね。
レンズ表面の凹凸は「ナノオーダー」で
泥団子は、細かい凹凸があっても特に問題にはなりませんが、レンズはそうはいきません。目に見えない微細な凹凸が光を散乱させ、不要光が発生することで、画質に影響が出てしまうのです。
逆に言えば、レンズ表面の凹凸がなく滑らかならば、ヌケがよくコントラストが高い画質が得られます。つまり、レンズ表面の加工はレンズの性能を大きく左右するのです。
フィルムカメラ時代から、レンズの性能の高さで定評があるオリンパス。デジタル時代になってからも、その定評は引き継いでいます。特に、「M.ZUIKO PRO」レンズは、画質にこだわるプロやハイアマチュアも納得の高画質となっています。
オリンパスのM.ZUIKO PROレンズのキーワードは「ナノオーダー」です。簡単に言えば、レンズ表面の凹凸を「数ナノメートル」に収めるというもの。1ナノメートル(nm)は10億分の1メートルです。なんのことやら……。
例えば、レンズの直径が3キロメートルくらいの円だとすると、その上に落ちている髪の毛1本レベルの精度を要求されるということらしいです。これですらピンときませんね。いずれにしても、目で確認できないほどの凹凸ということです。
オリンパスのすごいところは、そのナノオーダーのレンズを安定して供給できる技術を確立している点です。そこで、オリンパス株式会社 光学システム開発3部 宮田正人さんに、M.ZUIKO PROレンズのナノオーダーについて、解説していただきました。
高い描写性と機動性を高次元で両立しているのが「M.ZUIKO PRO」レンズ
ギズモード編集部(以下ギズ):高画質で定評のあるM.ZUIKOレンズですが、特徴はどんなところでしょうか?宮田正人さん(以下宮田さん):M.ZUIKOレンズは、中心から周辺まで高い光学性能を維持していることで高い評価をいただいています。それだけではなく、フォーサーズフォーマットの強みを最大限に活かし、小型軽量、つまりは機動性を重視したレンズづくりをしております。特にミラーレスとなったM.ZUIKOでは、ミラーをなくしたスペースを有効活用して、高い光学性能を維持しながら、どこまで光学系全体を小さくできるかを念頭に置いて開発をしています。
ギズ:M.ZUIKO PROレンズは、そのなかでもフラッグシップレンズという位置づけです。宮田さん:PROシリーズについては、「M.ZUIKO」や「M.ZUIKO PREMIUM」シリーズよりもさらに上のグレードの光学性能を達成しており、将来の高画素イメージャを見込んで高い解像力を確保することも考慮されています。さらに描写力はMTF(解像力)だけで決まるものではありません。たとえば、明暗差のある被写体の境界部に現れる色にじみや、ボケ像の縁が色づくパープルフリンジなどのさらなる低減であったり、逆光時におけるハイライトからシャドー部までの階調性をよりよくし、立体感や空気感を忠実に再現できるようにするため、フレアのさらなる低減という、スペック表には現れない性能も考慮しております。
高い描写性と機動性はトレードオフの関係にあるのですが、それらを高次元で両立したレンズがZUIKOレンズ全体の特長とも考えています。
レンズ加工の基本的な技術は2つ
ギズ:基本的なレンズ加工技術について教えてください。宮田さん:レンズの加工には大きく分けて2種類あります。ひとつが研磨加工、もうひとつが成形(プレス)加工です。研磨加工は主に球面レンズの製作に用いられるもので、レンズを1枚ずつ加工していきます。上図のようにレンズ形状を反転した工具を用いて、ガラスとすり合わせて工具と同じ形状に仕上げていきます。
一方、成形(プレス)加工は、主に非球面レンズに用いられる技術です。レンズ形状を反転した金型を作製し、上図のように高温でガラスを軟らかくして、金型で挟んでプレスし、レンズ形状を成形していきます。
ガラスより硬い金型材料を加工する技術がキーであり、微小な工具を非球面形状に沿って動かして、工具の軌跡で金型の形状を作り出していきます。オリジナルの加工機開発により高い加工精度と生産性を両立
ギズ:ナノオーダーの精度を実現するための技術とは、具体的にどんなものでしょうか?宮田さん:研磨加工では、ガラスの粗さを段階的に仕上げていく中で、各段階でガラスに合わせた工具を選択・開発し、加工条件を高精度にコントロールしていくことで、目標の精度を達成しました。とはいえ、数百種類ある光学ガラスから設計的に最適なガラスを選択し、ガラスに適した加工工具、条件が設定できないと目標の精度にはなりません。特にEDレンズ、スーパーEDレンズでは加工や取り扱いで傷がつきやすく、精度や品位を満たすことはかなり困難です。
成形(プレス)加工は前述のとおり、金型を小さな工具で加工するため、球面レンズに比べて表面に凹凸ができやすくなります。また、ガラスを成形するためには非常に硬い材料を使うため加工性が悪く、精度と生産性の両立が難しくなります。
加えて、レンズを成形する金型には、レンズより一段上の精度が求められるため、非常に高い加工精度が必要となります。
しかし、研磨工具の形状や材質に徹底的にこだわってオリジナルの工具を開発し、その結果、高い加工精度と生産性を両立することができました。また、自社開発の加工機によって、独自に編み出した工具の動き方やスピードを高精度にコントロールして、高い形状精度を実現し続けています。
レンズ開発技術と医療機器開発技術の関係
ギズ:研磨加工、成形加工ともに安定してナノオーダーの精度を出せることが、M.ZUIKO PROレンズの高画質を実現しているわけですね。オリンパスさんは、顕微鏡や内視鏡といった科学・医療分野の開発を長年にわたって行なっています。その技術がレンズ開発にも関係しているのでしょうか?宮田さん:高性能反射防止コーティングである「ZEROコーティング」は、顕微鏡の多層膜成膜技術で培った、薄膜制御技術を採用しています。また、EDレンズ、スーパーEDレンズの加工では、顕微鏡事業で培った加工技術を標準化することで、高精度なレンズの生産を実現しています。
逆に、カメラ用交換レンズで新しい技術を開発し、その知見を顕微鏡や内視鏡などの分野に水平展開することもあります。
ギズ:なるほど、カメラのレンズの技術が顕微鏡や内視鏡に活かされることもあれば、その逆もあるということですね。本日はありがとうございました。高画質の実現に向け、ナノオーダーの精度と生産性を両立した「M.ZUIKO PRO」レンズ
オリンパスのM.ZUIKO PROレンズの高画質は、研磨加工と成形(プレス)加工の高い技術の賜物なのですね。しかも、オリジナルの工具を開発することで、高い加工精度と生産性を両立している点も見逃せません。
特に生産性を高めることは、レンズの安定した供給と手にしやすい価格設定へとつながります。高画質なことはもちろん、安定した供給を実現していることも、M.ZUIKO PROレンズの特長と言ってもいいでしょう。
「ナノオーダー」は目に見えませんが、「画質」となって僕らは実感することができます。オリンパスのミラーレス一眼カメラの性能はもちろん、レンズの「高画質」があるからこそ、幅広いユーザーに愛用されているのではないでしょうか。
数ナノメートルという、小さな小さな凹凸。しかし、その凹凸がレンズの画質の鍵を握っています。オリンパスは、その小さな凹凸をゼロに近づけるため、日々研究を重ね、加工技術をブラッシュアップしています。それが、オリンパスのレンズの高画質を実現しているのです。
……それにしても、僕らが作った泥団子はとても不格好です。僕らも高い研磨加工と成形加工を身につければ、まん丸で凹凸のない泥団子を安定して作れるようになれるでしょうか。
目指せ「ナノオーダー」ですね!source: OLYMPUS ZUIKO DIGITAL
(三浦一紀)