六本木アートナイト直前インタビュー後編(前編はこちら)です。
六本木ヒルズ、東京ミッドタウン、国立新美術館などが一緒になってアートな企画を展開する、六本木アートナイト。最新のメディアアート展示や街なかでのパフォーマンスもあれば、周辺美術館が夜遅くまで楽しめるなど、幅広いジャンルのアートフェスティバルです。もっともイベントが集中する今年のコアタイムは、4月25日(土)の18時22分の日の入りから26日4時56分の日の出まで。
前編ではコンセプトやプレプログラム「ROPPONGI DATA OF MIND」について紹介しました。後編では、ライゾマティクスの柳澤知明さんとTASKO inc.工場長のKIMURAさんの、アートトラックのハードウェアを担当する2人にお話を伺いましたよ!
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アートトラックの魅力
ギズモード(以下ギズ) 六本木アートナイトのメインプロジェクトとなる「アートトラック」、今回ライゾマティクスさんとTASKO inc.さんが一緒に制作されているということですが、どういう分担をされていますか?KIMURA 機械系はTASKO、光る部分はライゾマティクスさんって感じですかね柳澤 LEDとか光の制御に関してはいろいろやってきているので。機材もありますし。逆に機構やメカニカルな部分は経験のあるTASKOさんにギズ 今回一緒にアートトラックをやることになったきっかけは何でしょうか?柳澤 以前から一緒に仕事をやっていたりしていたので…。KIMURA ライゾマティクス代表の齋藤さんに声かけてもらって。11トントラック、茨城のすごい広い倉庫を借りて作業やってるんですけど、作ってみたらめちゃめちゃでかくてびびってますね(笑)TASKO inc. KIMURAさん
ギズ アートトラックの制作状況はいかがですか?KIMURA 昨日の朝に提灯をのせるトラック(ハル号)のほうが、ほぼ完成って感じですね。あとはプログラムを作っていきます柳澤 ハル号はHIFANAのジャケットを描いているMAHAROさんたちが当日ペイントしてくれます。和風に新しい要素を加えたイラストになる予定ですKIMURA 六本木アートナイトの一晩で絵を描く、ライブペインティングです。アケボノ号のほうは、直径2mくらいの風船でできたミラーボールを3個積んでて、いろんな場所を回ってまた六本木ヒルズアリーナに帰ってきます柳澤 六本木ヒルズアリーナでは、光るジャングルジムとアートトラックが合体します。ジャングルジムはトラックよりもでかいので、アリーナではすごいオブジェになる。「合体」っていうのもコンセプトのひとつですねギズ 各地でライブもやるみたいですね柳澤 ライブの間に、参加者がミラーボールを操作できる時間帯もあって、こういうコントローラーを製作中です回転の速さと光るパターンが制御できて、隠しコマンドもある
ギズ ゲームセンターっぽい、派手な感じですよね。ライゾマティクスさんらしさも出ているような気がします。普段のご自身の活動でもこういったテイストの作品はありますか?柳澤 いえ、これは今回のコンセプトに寄せてます。普段もけっこうプロジェクトによっていろいろですね。Perfumeの光る衣装だったり、NIKEのシューズを改造したりとか。ライゾマティクスでは、みんな個々で動いていて、最後に合わせるということが多いです。僕も自分なりのこだわりを持ってものを作ってる。回路とか基盤も、最終的な見た目にはきれいに仕上げたいライゾマティクス 柳澤知明さん
ギズ 今回のアートトラック制作でいちばんおもしろかったことは何でしょうか?KIMURA やっぱりスケールじゃないですかね。大きいものあまり作らないので、あのトラックはでかいなと。さっきの動かす装置もそうですけど、いちいちでかいので。普段なら0.1mmクリアランスとるところを、5mmとかとって動かしたりとか。なんとなく古代の人たちの製作ってこんな感じだったのかなあって。あ、昨日できた構造がけっこうすごかったんですよ。ここ(荷台のあおり)を開けるのが…古代の船、みたいな感じで気に入ってるんですけど柳澤 どうやってるの? ワイヤーで引っ張る?KIMURA 巨大なてこを作って、ここをワイヤーで引っ張る。これがいちばん効率いいです柳澤 上のウィングは自動で開くんですけど、あおりは自分でバタンってやらないといけないKIMURA そう。上と合わせて、ムダに電動に(笑)ものがでかいから、見てておもしろいですよね。ここが自分ではいちばんネックだったんです。これで動かなかったらもう無理って思ってて、でも動いてよかったギズ 設計を写真に直接書かれているんですねKIMURA 今回はトラックなので、図面を書いてもけっこう曲線が多いし、ちゃんとした寸法図っていうのがないので。現場で見て、絵描きながら寸法出したりしてますね。例えばこのフレーム作って、中のパーツのサイズどうしようと思って、写真撮って書き込んでR(半径・カーブの強さ)の寸法割り出して、CADデータを作りましたKIMURA 写真撮ってそこに設計を書き込むっていうの手法は昔からあったんですが、今はiPadになったから取り込んでプリントアウトするっていうのがなくなった。便利なんですよ、紙と違ってなくさないし。今回の作業場みたいに広い場所行くとすぐどっかいっちゃうんですよね。あと汚くなったりとか(笑)ほんとは紙のほうが好きなんですけどねギズ 大きなものを作るときって考え方を変えるんですか?KIMURA 思考は変えないですよ。基本的には物理なんで、地球上の制約で作らなければいけないっていう。ただセオリーとかは変わってきますよね。このぐらいでできるだろと思ってたことがすごい時間かかったりとかマシンバンドから見えてくるもの
ギズ KIMURAさんは普段どんなものを制作されていますか?KIMURA 機械ですね。いろんなの作ってますけど、最近バンド始めたんですよ柳澤 僕も一緒にやってます(笑)KIMURAマシンバンドです。最近はそれがいちばん興味あって。こんなバンド。機械ですね。ちゃんと指とピックで弦を弾きます、これはなかなかないんですよKIMURA マシンバンドやってると、思うことがあって。どうしても機械で音楽やろうとすると仰々しくなってしまうんですよね。ちゃんと演奏できるようにとか、たくさん機能を加えていくほど、よくわかんなくなる。少ない機械で最大の効果を生むって機械設計の鉄則なんですよ。そうならないかと思ってます。例えば、3色ボールペンって「戻るボタン」がないですよね。別の色を出せば、他の色が戻る。これが突き詰めた設計。ムダが少ないほうが機械は美しいと思います柳澤 僕は機械を制御するデバイスとプログラムをやってます。楽器ってある程度練習しないと弾けないっていうのがあるんですけど、制御の部分をもっと簡単にして、誰でも演奏や作曲ができたりっていうことができればいいなと考えてますKIMURA 作曲もちゃんとミュージシャンにやってもらいたいなと思ってます。我々はミュージシャンじゃないので、曲作りとかって限界がある。それと、以前Squarepusherと、Z-MACHINESプロジェクトでマシンバンドを作ったことがあって、そのときに衝撃を受けたんです。僕らは最終的にこう使われるんだろうなと想像しながら、用途のために機械を作ってる。でもそういうことを無視するセンスのある人っているんだなと。「あ、そういう使い方もあるんだ」って。だから、外部から来た人とやるほうがもっと広がりのある、新しいものができるんじゃないかなと思うんです。まったく違うセンスを持つ人が集まってひとつのものが生み出されたり柳澤 けっこうそれがおもしろかったりしますね。例えば子どもが来て、はちゃめちゃな使い方をされて、こっちは壊れるかもしれないとか心配はするんですけど、それを見て「こういう使い方もあった」とか、「じゃあこうやって作ればいいな」とか考えることもあるので。こっち側は専門的な感覚で作っているので、こういう制御の仕方をするという、いわば先入観みたいなものが頭にあるんですよ。そうすると、やっぱり作った側の考え方寄りのものになってしまう。楽器みたいな話だと、ミュージシャンとか使っていただく方にこういう使い方をしたいとか、ここはもうちょっとどうにかしてほしいとか言われると、やっぱり燃えるというか。それは僕の頭の中にはなかったものなのでKIMURA素人ほど機械はおもしろいんですね、玄人になればなるほどかたくなっていく。経験を積んでくと、無意識にこっちの方向が正解って思っちゃうんです。ほんとうはそれが正解ってこともないし、あっちも正解。でも経験とかでこっちを選びがちになる。素人だと全然違うあさっての方向から来たりするんです。そういう感覚は常に持っていたほうが、おもしろいものができるんじゃないかとギズ あえていつもと違うやり方を模索することはありますか?KIMURA 自分はあります。それでも、最初に思いついたアイディアの解像度はあまり下げないようにしますけど。いきなりぽっと出てくるアイディアって脳の奥のほうから出てきたものではないかと思ってて。地球上の規格を無視してることが多いんですけど、それが自分のいちばん作りたいものだと。でもそれを作るために、そのイメージの解像度を落としていくと、結局は今あるものになっちゃう。僕は地球上の規格にないものをつくりたいんで。脳のピュアなデータをそのままここに出したい。まあ、頼まれた仕事ではあまりやらないですけどね。自分のバンドでは、できるかできないかはとりあえず置いといてやってみることが大事。昨日できなかったことが今日できたってなるとすごく楽しいですねギズ 最後に、もしこれからアートトラックを作り込んでいくとすると?KIMURA 風船でデコレーションをやりたかったなと。風船って、ばっと広がるじゃないですか。そのトランスフォーム感をやりたかったなと思いますね。最初は後ろに収納されてて、アリーナに着いてスイッチが入ると広がってデコレーションになるとか柳澤 変形とか合体っていうのもテーマにあったので、そういうのも詰めたいですね。今回時間的な問題もありますし、いろいろできなかったことがあるので、機会があるならもうちょっとやってみたいなとは思いますね。一回やってから出てくるアイディアってありますしねギズ ありがとうございました!***
六本木アートナイトは今週末25日(土)から26日(日)にかけて、六本木周辺で行なわれます。アートトラックのハル号は東京ミッドタウン キャノピー・スクエアに、アケボノ号は六本木ヒルズアリーナ、国立新美術館西門、東京ミッドタウン アトリウムと3カ所をパフォーマンスとともに周るそうですよ。
これから六本木アートナイト 2015のプレス説明会。今年は全部の展示がイングレスのポータルになっていてなにやら凄い仕掛けもあるみたいです! #RAN15pic.twitter.com/C9dEhOLVJd
— Nobuyuki Hayashi林信行 (@nobi) April 23, 2015
お話の中にあった、光るジャングルジムもちらっとお目見え! Ingressとコラボして光の色が変わることも発表されました。当日夜、何が起こるのかワクワクです。
source: 六本木アートナイト、アートトラックプロジェクト、Rhizomatiks、TASKO inc.
(執筆/斎藤真琴、撮影/鴻上洋平)