ただそれを追求するために、彼は最適化された頭脳と体を持つ。
ロボット掃除機の代表格としておなじみの「ルンバ(Roomba)」。電気で動くものが大好きで、テクノロジーやサイエンスに興味津々なギズモード読者はもちろん、それこそ電化製品にあまり興味がない層にも、その存在は広く認知されています。しかし、ルンバってどんなもの?と聞いても、多くの人は「自動でお掃除してくれる」「評価は高いよね」など、ふんわりとした認識ではないでしょうか? いや、でもそれいいのかもしれません。
ルンバの本業は動物を乗せることでも、可愛く振る舞うことでもなく、お掃除そのものなんです。気がついたら部屋が常に綺麗になっているというのがロボット掃除機であるルンバのお仕事なんです。
ではなぜ、掃除を任せられるほど、ルンバの掃除能力は高いのでしょうか? それはルンバには最先端のロボットテクノロジーが集積されているからです。この記事ではそれらルンバのテクノロジー面にスポットを当て、ルンバの考え方や、彼が「ロボット」掃除機たるゆえんを解明していきましょう。
ルンバはお掃除中、何を考えてるの?
ルンバがどこで作られているのかというと、米国にあるアイロボット社。世界有数のロボットカンパニーです。民間会社ながら米国政府と協力し、海岸沿いの地雷撤去ロボットAriel(アリエル)、危険地域の探索・作業を行えるPackBot(パックボット)など、人の命を守るロボットも開発しています。
ルンバはその高い技術力と、最先端のロボットテクノロジーを、「お掃除」という日々の作業へと落とし込みました。2センチまでの段差を乗り越えられる高い走破性はもちろん、部屋をくまなく掃除できる掃除能力の高さもそのおかげ。
そして、そのロボットテクノロジーの最たるものが、高速反応プロセス「iAdapt(アイ・アダプト)」です。これはいわばルンバの反射と知能。事前情報なしで、現実世界に則した動きができ、今自分がどんな状況に居るのか?を判断しているんですって。
iAdaptは、アイロボット社設立メンバーのひとりであるロドニー・ブルックス氏が提唱した考え方をもとに作られた技術と、「掃除」に最適化された技術とを掛け合わせてできたテクノロジー。ロボットカンパニーの確かなDNAが生きています。
ルンバは数十に及ぶセンサーで「調べる」、毎秒60回以上の状況判断で「考える」、そしてそこから導き出される40以上の行動パターンでくまなく「掃除する」。これは、iAdaptというテクノロジーがあってこそ可能になっているんです。
例えば日々のお掃除シーンで、コードを巻き込みそうになってしまった時でも、「自分が何か巻き込みそう!」という状況を理解しているんです。そして、コードを絡ませずに綺麗にするためには?という動作をiAdaptにより瞬時に判断。絡みそうになったらブラシを逆回転させるといった安全行動を取るんです。考えて行動しているわけです。
本体底部の段差センサーにより、階段や玄関の段差から落下するといった心配もありません。もちろんこれは声を大きくして言うまでもなく、「自分の身を守らなければいけない」というロボットの命題として当然の行動。でもルンバはさらに1歩進んだ思考を持っています。
段差でブレーキが掛かったあと、ルンバは現在までの掃除状況や自分の位置などを認識し、「どういった角度で戻るのが良いか」を自分で判断しているんです。ルンバの動きはランダムだと言われることもありますが、ちゃんと考えて行動しているんですよ。
ルンバは椅子の下のお掃除も得意で「椅子の下から出てこれなくなっちゃった…」なんてこともありません。それどころか椅子の足先を念入りにぐるぐるっと掃除して出てきてくれます。お掃除前に椅子をテーブルに上げるなんて、必要ないんです。一見、ただ配線や段差を回避していたり、椅子の下に潜り込んでいたり、ロボット掃除機なら当たり前のことをしているだけに思えるかもしれません。しかし、ルンバは各種センサーとiAdaptによって、自分の状況をちゃんと認識し、人の手がかからないように考えてお掃除してくれているんです。
ハードウェアもiAdaptが活きる設計に
頭のいい子、というだけではありません。
ルンバはハードウェアもこのiAdaptの判断力を活かせる設計が成されています。例えばルンバのエッジクリーニングブラシ。たった1本のブラシでも効率よく部屋の隅のゴミをかき出します。
いや、正確には効率よくかき出すようにルンバ自身が考えて動くんです。そこが部屋の隅だなと認識したら、ちゃんと壁添にそってブラシが壁際をかき出すように丁寧に。しっかりと。
ゴミセンサーも優秀で、ゴミを吸い込んだことも理解してくれます。その後どうするかというと、「この辺にゴミがあった。この辺りは汚れているに違いない」と、念入りにその周囲をお掃除してくれるんです。
丸くて薄い形状もルンバの特徴。幅40cm、高さ10cm以上の隙間があれば入り込むことができます。
ルンバには距離を認識するセンサーがありますが、壁や障害物を認識しても手前で止まらずにあえてぶつかっていきます。もちろん、事前に速度を落とし、ソフトタッチバンパーで接触時のショックを和らげて。理由はもちろん、ちゃんと隅々まで綺麗にしたいから。エッジクリーニングブラシが届くように、そして限界まで吸引できるように。
なので、もし部屋にファサッとしたカーテンや、垂れ下がったベッドカバーが前にあっても大丈夫。窓際・ベッドの下・ソファの下などへもぐんぐんと頼もしく進んで行ってくれます。
よく考えてパワフルに動くことで、最終的には同じ場所をさまざまな角度から平均4回。部屋をくまなくお掃除しきってくれるんです。広い部屋も狭い部屋も、障害物が多い部屋も、物の位置が変わったとしても、部屋を全体を隅から隅まで掃除し常に綺麗な状態へ! それがルンバの思考です。
ソフトウェアとハードウェアを貫くテクノロジー
アイロボット社が持つロボット開発の技術とテクノロジー。それはソフトウェア、ハードウェアを貫く形でルンバへと吸い込まれました。その結果、ルンバは自分の掃除能力を知り、自分で考えて「掃除」へと挑んくれるのです。
そしてそのルンバの「掃除」を支えているのは、ソフトウェアとハードウェアの適切なバランス。このバランス感覚は、ロボット専業メーカーであるアイロボット社のテクノロジーとロボット理論が根底にあるからこそ実現されているのです。
現在、さまざまな分野でロボットが登場し、ロボット産業・ロボットテクノロジーが注目されています。その中でアイロボット社が考えているロボットのあり方が「ワンミッション・ワンロボット」。
どんな作業もそれを効率よく達成するためには、適した形状があります。利用シーンや用途がはっきりとわかっているのであれば、汎用性を持たせるよりも、専用性に特化したほうが高性能なものになります。だからお掃除に特化したルンバは丸くて薄いこの形。そして去年発売された床拭き用のブラーバはこんな形なんです。
人間の代わりに、人間ではできないことを。
それこそ60分のお掃除なんて、僕らがやったら嫌になっちゃいますよね…。でも「疲れたぁ〜」とか「もういいかなぁ…」なんて文句ひとつ言わず、ルンバは安全に、そして万全に部屋を綺麗にすることを追求します。ルンバの評価が高いと感じる理由は、そこにあるのかもしれません。
ロボット掃除機が目指す先は「存在しないこと」だ、ともアイロボット社は語ります。気がつけば部屋が綺麗になっていること。そして、メンテナンスを最小限に抑えること。人間が気に留めない存在として、生活を支援するものとして。
ロボット掃除機ルンバ。筐体はシンプルに、頭を良くすることでそこへ挑んでいます。
source: ルンバ
(小暮ひさのり)